はじめに
「じっと座っていられない」「ぶつかりやすい」「服のタグをいやがる」。こうした様子を、体の感覚の使い方から考える見方があります。
それが感覚統合です。このノートでは、感覚統合とは何か、感覚統合療法の内容、発達障害との関係、そして研究でどこまでわかっているのかを、できるだけ正直に整理します。
1. 感覚統合とは何か
感覚統合は、アメリカの作業療法士で心理学者のA・ジーン・エアーズ(Ayres)が考えた理論です。私たちは、触れる、揺れる、体の傾きや筋肉の動きを感じるなど、たくさんの感覚を受けとっています。その感覚を脳が整理してまとめ、うまく使う働きを「感覚統合」と呼びます。
特に大切にされるのが次の3つです。
- 触覚:肌にふれる感覚
- 前庭覚(平衡感覚):揺れ、傾き、スピードの感覚
- 固有覚:筋肉や関節から、体の位置や力加減を感じる感覚
エアーズは、感覚の処理がうまくいかないと、行動、学習、情緒に影響が出ると考えました。
2. 感覚統合療法とは
感覚統合療法は、主に作業療法士が、遊びを通して行います。ブランコ、トランポリン、ボールプール、クッションのトンネルなど、子どもが自分から「やりたい」と思う遊びの中で、感覚をほどよく味わえる活動を用意します。
特徴は、子どもに訓練をさせるのではなく、子どもの「楽しい」を軸に、ちょうどよい挑戦を組み立てるところです。たとえば、ブランコで揺れてから、的に向かってボールを投げる、といった具合です。
3. 発達障害との関係と、研究の現状
自閉スペクトラム症(ASD)やADHD、発達性協調運動症(DCD)のある子には、感覚の感じ方や体の使い方に特徴があることが多く、感覚統合の考え方がよく使われます。感覚過敏との関連で語られることも多くあります。
ただし、感覚統合療法の効果については、研究の結論がまだ分かれています。効果が見られたという報告がある一方で、研究の数や質に限りがあり、はっきり「効く」と言い切れる段階ではありません。
そのため、感覚統合は「これで特性が治る」というものではなく、その子の感覚の特徴を知り、過ごしやすくするための見方として使うのが現実的です。
米国小児科学会(AAP)は、2012年の声明で、感覚にもとづく療法の効果を示すデータはまだ限られていて、結論が出ていない、としています。
そのため、ブランコや体を使う遊びは、「治すためのもの」ではなく、子どもの安心感や、気持ちの落ち着きにつながるものとして楽しむのがよいでしょう。あわせて、イヤーマフやついたてなど、環境の調整も組み合わせてください。
4. 家でできること
- 体を使う遊びを日常に:公園の遊具、布団でごろごろ、おんぶ、押し相撲
- 環境を調整する:イヤーマフ、ついたて、静かな席など、刺激を減らす工夫も合わせて使う
- いやがる刺激は無理に慣らさない:タグを切る、縫い目の少ない服にする
- 落ち着く感覚を見つける:ぎゅっと抱きしめる、重めのブランケットなど、好きなものを探す
- 感覚の「好き・苦手」をメモする:音、光、手ざわり、味、におい
- 気になるときは専門家に:作業療法士のいる療育機関や病院に相談する
結び
感覚統合は、子どもの行動を「わざと」や「わがまま」ではなく、感覚の違いから見直すきっかけをくれます。
効果についてはわかっていないことも多いからこそ、期待しすぎず、その子が楽しく体を動かせる時間を大切にしてみてください。
参考資料
- Ayres, A. J.『子どもの発達と感覚統合』協同医書出版社
- Zimmer, M., & Desch, L. (2012). Sensory integration therapies for children with developmental and behavioral disorders. Pediatrics, 129(6), 1186–1189.
- 発達障害情報・支援センター https://www.rehab.go.jp/ddis/
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書いた人 たぶ先生(いわおひろあき)
東北大学大学院文学研究科で社会学(理論社会学・地域社会学)を学び、博士後期課程まで進む(博士論文は未提出)。早稲田大学卒。発達特性のある子どもたちとのマンツーマン療育・教育に2010年から携わる。仙台で発達障害専門の家庭教師としてスタートし、児童発達支援・放課後等デイサービスの現場、複数施設のマネジメントを経験。いまは発達障害のインタビュー研究を続けながら、オンライン家庭教師・療育相談「いっかく」を開いている。
保育士/中学校・高等学校教員専修免許(社会・公民)/文学修士(専攻は社会学)/社会福祉士/児童発達支援管理責任者/産業カウンセラー
