はじめに
「友だちにうまく声をかけられない」「ことわるのが苦手で、いやなのに合わせてしまう」。人との関わりでの困りごとは、見た目ではわかりにくく、本人も説明しにくいものです。
こうした場面で使われるのがSST(ソーシャルスキルトレーニング)です。このノートでは、SSTとは何か、どんな困りごとに役立つのか、発達障害との関係、家でできる練習を整理します。
1. SSTとは何か
SSTは Social Skills Training の頭文字で、日本語では社会的スキル訓練や社会技能訓練と呼ばれます。あいさつをする、仲間に入れてもらう、頼む、ことわる、気持ちが高ぶったときに落ち着く。こうした「人との関わり方」を、具体的な場面で、少しずつ練習する取り組みです。
もともとは精神科の医療の場で使われてきた方法で、いまは療育、学校、放課後等デイサービス、大人の就労支援など、さまざまな場所で行われています。
「空気を読む」のような、あいまいな力を教えるのではありません。「こう言えば伝わる」「こういうときはこうする」と、目に見える形に分けて練習するのが特徴です。
2. 進め方と具体例
SSTは、おおまかに次のような流れで進めます。
- ねらいを決める:たとえば「遊びに入れてもらうときの言い方」
- お手本を見る:大人が、うまくいく例とうまくいかない例を見せる
- やってみる(ロールプレイ):先生や友だち役を相手に、実際に言ってみる
- ふり返る:できたところをほめ、直すところを一緒に考える
- ふだんの場面で使ってみる:宿題のように、日常で試して報告する
1対1で行うこともあれば、小さなグループで行うこともあります。グループだと、友だちのやり方を見て学べる良さがあります。
3. SSTと発達障害の関係
自閉スペクトラム症(ASD)のある子は、相手の表情や言外の意味をつかむことが苦手なことがあります。ADHDのある子は、衝動的に言葉が出たり、順番を待つことがむずかしかったりします。こうした特性から、人との関わりでつまずきやすい子に、SSTがよく使われます。
ただし、気をつけたい点があります。SSTで身につけたやり方は、練習した場面以外で使うのがむずかしいことが知られています。教室でできても、公園では出てこない、ということがあります。
また、SSTは「みんなと同じ振る舞いに直す」ためのものではありません。その子が困っている場面で、使える選択肢を増やす。そう考えるほうが、子どもの負担が軽くなります。
4. 家や学校でできるサポート
- ひとつの場面に絞る:「貸して」の言い方だけ、など、小さく始める
- 大人がお手本を見せる:「こう言うと伝わるね」と、実際の声で聞かせる
- うまくいったらすぐ具体的にほめる:「自分から『入れて』って言えたね」
- 家族とのごっこ遊びで練習する:お店屋さんごっこで、頼む・ことわるを試す
- 失敗しても責めない:「次はこうしてみようか」と、一緒に作戦を考える
結び
SSTは、人づきあいの「正解」を教え込むものではなく、困ったときに使える引き出しを増やす練習です。
練習の場だけで終わらせず、ふだんの暮らしの中で小さく試して、うまくいった経験を重ねる。その積み重ねが、子どもの安心につながっていきます。
参考資料
- 発達障害情報・支援センター https://www.rehab.go.jp/ddis/
- 国立特別支援教育総合研究所 https://www.nise.go.jp/
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書いた人 たぶ先生(いわおひろあき)
東北大学大学院文学研究科で社会学(理論社会学・地域社会学)を学び、博士後期課程まで進む(博士論文は未提出)。早稲田大学卒。発達特性のある子どもたちとのマンツーマン療育・教育に2010年から携わる。仙台で発達障害専門の家庭教師としてスタートし、児童発達支援・放課後等デイサービスの現場、複数施設のマネジメントを経験。いまは発達障害のインタビュー研究を続けながら、オンライン家庭教師・療育相談「いっかく」を開いている。
保育士/中学校・高等学校教員専修免許(社会・公民)/文学修士(専攻は社会学)/社会福祉士/児童発達支援管理責任者/産業カウンセラー
