計算障害(ディスカリキュリア)とは?意味と具体例
東北大学院卒の発達障害学習ノート

たぶ先生(いわおひろあき) ・ 2026.10.13

はじめに

「九九がなかなか覚えられない」「繰り上がりのたびに間違える」「文章題になると手が止まる」。算数のつまずきは、練習量が足りないせいだと思われがちです。

けれども、何度やっても定着しない背景に、数や計算を扱うときの脳の使い方のちがいがあることがあります。このノートでは、計算障害(ディスカリキュリア)とは何か、どこでつまずくのか、家や学校でできる工夫を整理します。

1. 計算障害(ディスカリキュリア)とは何か

計算障害は、学校(文部科学省)の定義では、全体的な知的発達に遅れはないものの、数の理解や計算の習得に特別な難しさがある状態を指す言葉です。「ディスカリキュリア」は、その状態を説明するための呼び名として使われます。

医学の診断基準(DSM-5)では、LD(学習障害)にあたる「限局性学習症」の中の、算数に困難があるタイプとして位置づけられています。DSM-5では「限局性学習症(算数の困難を伴う)」と呼びます。判断のしかたは学校の定義と少し違い、診断は医師が総合的に行います。日常では、診断の有無にかかわらず、算数の苦手さを説明する言葉として使われることもあります。

大事なのは、名前をつけることよりも、どの部分でつまずいているのかを見分けることです。同じ「算数が苦手」でも、つまずきの場所がちがえば、手当てもちがうからです。

2. 困りごとの具体例:3つのつまずき

算数のつまずきは、大きく3つに分けて考えると整理しやすくなります。

  • 数の感覚(量・大小)がつかみにくい:「7と9ではどちらが大きいか」を数えないと答えられない。数字を見ても、量のイメージがわいてこない
  • 計算の手順が自動化しにくい:九九や、繰り上がり・繰り下がりを覚えても、すぐに抜けてしまう。指を使った計算がなかなか卒業できない
  • 文章題を式にできない:書かれた場面を思い浮かべて、「たすのか、ひくのか」を決めるところで止まる。数字を拾って、とりあえず計算してしまう

1つだけに困る子もいれば、複数が重なっている子もいます。「計算はできるのに文章題がだめ」という子と、「文章題の意味はわかるのに計算でミスする」という子では、必要な手助けがちがいます。

3. どこでつまずくか(しくみ)と発達障害との関係

数の感覚は、「5は3より2つ多い」のような、量としての数のとらえ方がもとになります。ここが弱いと、数字が意味のない記号のように見えてしまい、計算を丸暗記に頼ることになります。丸暗記は忘れやすく、応用もききません。

計算の手順では、ワーキングメモリがよく使われます。繰り上がりでは、「いくつ繰り上がったか」を覚えたまま次の位を計算するからです。ここが苦手だと、手順は知っていても途中で抜けてしまいます。

文章題では、ことばの理解、場面のイメージ、式への置きかえという、いくつもの力が同時に必要になります。図形や位取りの「ずれ」には、視覚認知のしにくさが関わることもあります。

LDやADHDのある子には、算数のつまずきが見られることがあります。ただし、算数が苦手=発達障害ではありません。ふだんの様子と合わせて、全体を見ることが大切です。

4. 家や学校でできるサポート

  • 量を目で見せる:数直線、ブロック、おはじき、十円玉と一円玉などを使い、数を「かたまりの量」として見せる
  • 位取りシートを使う:一の位・十の位の枠を描いた紙の上で計算し、桁がずれないようにする
  • 九九表や電卓を使ってよいことにする:計算そのものが目的でない場面(文章題や図形)では、手順の負担を減らして、考える部分に力を使う。学校では合理的配慮として相談できます
  • 文章題は絵や図にしてから式にする:場面を絵に描く、線分図にする、といった一手間を挟む
  • 九九は歌・リズム・段ごとの小分けで:1日に1段だけ、短時間で。覚えにくい段は表を見ながらでもよしとする
  • 反復だけを押しつけない:同じ計算を大量に解かせると、「やっぱりできない」という気持ちだけが積み上がります。量を減らして、確実にできる問題で自信を保ちます

合理的配慮は、障害者差別解消法にもとづく考え方で、2024年4月からは民間事業者にも提供が義務づけられました。「電卓を使わせてほしい」「テストの時間を延ばしてほしい」など、具体的に困っている場面を担任の先生に伝えると、話が進みやすくなります。

結び

算数のつまずきは、「やる気」や「練習量」の問題に見えて、実は数の感覚や、頭の中の作業台の使い方に原因があることがあります。

どこで止まっているのかを見つけて、そこに道具や図を足してあげる。それだけで、算数が「少し楽な教科」に変わる子は少なくありません。

参考資料

  • American Psychiatric Association『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院、2014年
  • 文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」2022年
  • 国立特別支援教育総合研究所 https://www.nise.go.jp/

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書いた人 たぶ先生(いわおひろあき)
東北大学大学院文学研究科で社会学(理論社会学・地域社会学)を学び、博士後期課程まで進む(博士論文は未提出)。早稲田大学卒。発達特性のある子どもたちとのマンツーマン療育・教育に2010年から携わる。仙台で発達障害専門の家庭教師としてスタートし、児童発達支援・放課後等デイサービスの現場、複数施設のマネジメントを経験。いまは発達障害のインタビュー研究を続けながら、オンライン家庭教師・療育相談「いっかく」を開いている。

保育士/中学校・高等学校教員専修免許(社会・公民)/文学修士(専攻は社会学)/社会福祉士/児童発達支援管理責任者/産業カウンセラー

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