はじめに
基本の問題はできるのに、応用問題や文章題になると止まってしまう。習ったことは覚えているのに、少し形を変えられると手が出ない。そんな姿の背景に、流動性推理という力が関わっていることがあります。
このノートでは、WISCの流動性推理(FRI)が何を見ているのか、傾向、視空間とのちがい、工夫を整理します。
1. 流動性推理(FRI)とは何か
WISC-Vには、言語理解・視空間・流動性推理・ワーキングメモリー・処理速度の5つの主要指標があります。流動性推理は、前のバージョン(WISC-IV)の「知覚推理」が分かれて、独立した指標になったものです。指標の得点は、平均が100です。
流動性推理が見ているのは、はじめて出会う問題から、きまりや関係を見つけ出して考える力です。習った知識を使うのではなく、その場で新しく考える力といってもよいでしょう。
具体的には、「行列推理」(並んだ図形のきまりを見つけ、空いているところに入る図を選ぶ)や「バランス」(天秤がつり合うために何が必要かを考える)といった検査が、ここに入ります。
2. 高いとき・低いときの傾向
次に書くのは、あくまで傾向であって、診断ではありません。
- 高いとき:初めての問題でも、きまりを見つけて解ける。応用問題や、パズル、論理的な問題が得意。ひらめきが早い
- 低いとき(そういう困りごとが見られる場合もあります):習った方法はできても、形が変わると止まってしまう。文章題で、何を使えばよいか見つけにくい。「なぜそうなるか」より「やり方」で覚える傾向
低めの子でも、やり方を丁寧に教えてもらえば、着実に身につくことが多いです。
3. 学校での場面と、視空間とのちがい
学校では、応用問題、文章題、理科の実験の考察、「他に方法はないか」を考える課題などで、流動性推理が使われます。
似た指標に視空間(VSI)がありますが、見ている力がちがいます。視空間は形や位置関係をとらえる力、流動性推理はきまりや関係を見つけ出す力です。図形の問題でも、形をとらえるところで止まる子と、きまりを見つけるところで止まる子がいます。
言語理解が高く、流動性推理が低めの子は、知識や説明はよくできるのに、初めての問題が苦手、というギャップが出ることもあります。
LD、ASD、ADHDのある子にも、この指標の凸凹が見られることがあります。ただし、指標の差だけで発達障害かどうかは決まりません。検査の結果は、その日の様子を切り取った、ひとつの目安です。指標の数字だけで、困りごとの理由は決まりません。生活の様子や検査をした人の説明と合わせて考えましょう。
4. 家や学校でできる工夫
- きまりをことばにして一緒に確かめる:「どれが同じ?どこがちがう?」と、問いかけながら探す
- 例を2〜3個見せてから解かせる:同じ種類の問題を並べて見ると、きまりが見えやすい
- 図や表にして整理する:文章題は絵や線分図にして、関係を目に見える形にする
- 「なぜ?」を話す練習をする:答えだけでなく、考えた道筋を口で説明する
- 失敗を許す場をつくる:間違えたら、どこでずれたかを一緒に見る。正解を急がせない
- ヒントを段階的に出す:いきなり答えを教えず、「まず何がわかっている?」から始める
「考える力」は、才能だけで決まるものではありません。ことばにする、図にする、くり返し経験する。そのどれもが、きまりを見つける力を支えます。
結び
初めての問題に出会ったとき、どう考えればよいかがわかる。その力は、学校だけでなく、生活のなかでも役に立ちます。
得意な子は、さらに伸ばせるように。苦手な子は、きまりをことばや図で見えるようにして。それぞれの子に合った支え方があります。
参考資料
- 日本文化科学社「日本版WISC-V知能検査」 https://www.nichibun.co.jp/
- 国立特別支援教育総合研究所 https://www.nise.go.jp/
- American Psychiatric Association『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院、2014年
あわせて読みたい
- WISC(ウィスク)とは?
- 計算障害(ディスカリキュリア)とは?
- WISCの言語理解(VCI)とは?
- WISCの視空間(VSI)とは?
- 特別支援教育の巡回心理士とWISC検査|「みんなと同じ」では、届かない(note)
書いた人 たぶ先生(いわおひろあき)
東北大学大学院文学研究科で社会学(理論社会学・地域社会学)を学び、博士後期課程まで進む(博士論文は未提出)。早稲田大学卒。発達特性のある子どもたちとのマンツーマン療育・教育に2010年から携わる。仙台で発達障害専門の家庭教師としてスタートし、児童発達支援・放課後等デイサービスの現場、複数施設のマネジメントを経験。いまは発達障害のインタビュー研究を続けながら、オンライン家庭教師・療育相談「いっかく」を開いている。
保育士/中学校・高等学校教員専修免許(社会・公民)/文学修士(専攻は社会学)/社会福祉士/児童発達支援管理責任者/産業カウンセラー
