はじめに
「字が汚い」「何度も書いて覚えさせているのに、漢字が書けない」「ノートを取るのにすごく時間がかかる」。書くことの困難は、見た目の問題として扱われやすく、「ていねいに書きなさい」と注意されがちです。
でも、本人はすでに精いっぱいやっていることが多いのです。このノートでは、書字障害(ディスグラフィア)とは何か、書けない理由をどう切り分けるか、家や学校での工夫を整理します。
1. 書字障害(ディスグラフィア)とは何か
書字障害は、学校(文部科学省)の定義では、全体的な知的発達に遅れはないものの、字を書くことに特別な難しさがある状態を指す言葉です。「ディスグラフィア」は、その状態を説明するための呼び名として使われます。
DSM-5では、LDにあたる「限局性学習症(書字表出の困難を伴う)」と呼びます。判断のしかたは学校の定義と少し違い、診断は医師が総合的に行います。読むことの困難(ディスレクシア)とは別のもので、読むのは得意でも書くのが苦手な子もいます。
「書く」という動作は、見る・思い出す・手を動かす・間違いを確かめる、という作業の連続です。どこか1か所でも負担が大きいと、全体が重くなります。
2. 困りごとの具体例
- 字の形が整わない:マスからはみ出す、バランスがとれない、線の長さやとめ・はねが合わない
- 鏡文字・左右や上下の逆転:学年が上がっても残ることがある
- 漢字が覚えられない・思い出せない:何度書いても、次の日には書けない。部首や細かい点画が抜ける
- 書くスピードが極端に遅い:板書や作文が時間内に終わらない
- 書くことに強い疲れや痛みがある:鉛筆を強く握りしめる、すぐ手が痛くなる
- 頭の中では話せるのに、作文になると進まない:書く作業に力を取られ、内容を考える余裕がなくなる
こうした姿が続くと、「書くのがいやだ」「勉強がいやだ」という気持ちにつながります。
3. どこでつまずくか(しくみ)と発達障害との関係
書けない理由は、ひとつではありません。大きく3つの場所を疑ってみると、手当てが見つかりやすくなります。
- 形をとらえる(視覚認知):お手本の形を目で見て、位置や長さを正しくとらえる力。ここが弱いと、見ているつもりでも細かいところがずれます。視覚支援や、形に注目しやすい教材が助けになります
- 手先の動き(協調運動):鉛筆を持って、思ったとおりに動かす力。DCD(発達性協調運動症)のある子は、書字だけでなく、ボタンや靴ひも、はさみなどにも不器用さが出ることがあります
- 覚えておく(ワーキングメモリ):字の形、書き順、次に書く内容を頭に置きながら書く力。ここが弱いと、書いている途中で形や内容が抜けてしまいます
実際には、複数が重なっていることも珍しくありません。LD、DCD、ADHD、ASDのある子にも、書字の困難が見られることがあります。ただし、字が苦手=発達障害ではありません。
4. 家や学校でできるサポート
- マス目の大きいノート・補助線入りのノート:字のバランスをとりやすくする
- 太軸の鉛筆・持ち方の補助具・滑り止め:握る力を減らし、疲れを軽くする。やわらかい芯(Bや2B)も試す価値があります
- なぞり書き:点線の字や、薄い字をなぞることで、形と動きを体で覚える
- タブレットやパソコンでの入力・写真撮影:黒板をカメラで撮る、キーボードで文章を書く。学校には合理的配慮として相談します
- 書く量を減らす:漢字は少数に絞る、ノートは穴うめにする、作文は口で話した内容を大人が書き取る
- 漢字の書き取りの反復だけに頼らない:同じ字を何十回も書く方法は、うまく覚えられない子には負担が大きいだけです。部首の意味を話す、ことばで語呂を作る、指で空書きする、といった別の入り口を試します
合理的配慮は、障害者差別解消法の考え方にもとづくもので、2024年4月からは民間事業者にも義務になりました。「書くスピードが追いつかない」と具体的に伝えるのが、相談の近道です。
結び
字がきれいに書けるかどうかと、考える力や知識は別のものです。書くことの負担を軽くすると、その子が持っている力が見えてきます。
道具を変える、量を減らす、書く以外の方法を認める。「書けない子」ではなく、「書く方法が合っていない子」と見直すところから、始めてみませんか。
参考資料
- American Psychiatric Association『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院、2014年
- 文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」2022年
- 国立特別支援教育総合研究所 https://www.nise.go.jp/
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書いた人 たぶ先生(いわおひろあき)
東北大学大学院文学研究科で社会学(理論社会学・地域社会学)を学び、博士後期課程まで進む(博士論文は未提出)。早稲田大学卒。発達特性のある子どもたちとのマンツーマン療育・教育に2010年から携わる。仙台で発達障害専門の家庭教師としてスタートし、児童発達支援・放課後等デイサービスの現場、複数施設のマネジメントを経験。いまは発達障害のインタビュー研究を続けながら、オンライン家庭教師・療育相談「いっかく」を開いている。
保育士/中学校・高等学校教員専修免許(社会・公民)/文学修士(専攻は社会学)/社会福祉士/児童発達支援管理責任者/産業カウンセラー
